Vaundy [ 逆光 replica ]:コード進行分析

はじめに
まずは、曲の基本情報について。
この曲のキーは「G# マイナー」の調整で作られた曲です。
そのため、スケールの構成音は「G#, A#, B, C#, D#, E, F#」の7音となります。
したがって、ダイアトニックトライアドは、G#m, A#dim, B, C#m, D#m, E, F# です。
ダイアトニックセブンスコードは、G#m7, A#m7(b5), Bmaj7, C#m7, D#m7, Emaj7, F#7 ということになります。
BPMは145です。
コード進行について
分析については、曲の基本的な部分だけを取り上げようと思いますので、イントロ、Aメロ、そして、サビ、という3つのパートを対象にして進めていきます。
あくまでも、素人である僕のリサーチに基づく情報であり、一次情報ではないため原曲のコードとは異なる可能性もある点は補足しておきます。
Intro
Bm
Bm のコードでギターソロのイントロが繰り返されます。
Aメロ
E, B, D#m , C#m, G#m
E, B, F#, G#m
2小節の類似したセクションが繰り返されます。
双方ともに、後半の1小節分はおおむね拍ごとにコードが動くため曲の展開にはスピード感があります。
サビ
G#m, B, C#m7, Ddim7, D#
これまでの速く展開するハーモニックリズムとは異なり、サビでは2小節の間、同じコードが続くリズムとなります。
分析
分析とは言うものの、コード進行の流れを整理するにとどまり、それによって得られていると思われる「効果」や「意味」という部分には自分の能力的に言及できないことをはじめにお断りしておきます。
Intro
Intro
Bm
この曲の冒頭はかなり印象的なギターフレーズで始まります。
おそらく、この曲を聴いたことがある人であれば、フレーズ自体をなんとなく思い浮かべることはできると思いますが、口ずさもうとするとうまくいかないのではないでしょうか。
この曲は、冒頭から主たる調性のダイアトニックコードではない、「Bm」というコードから始まります。これは、モーダルインターチェンジを用いたコード選択です。主たる調性との関係性を具体的に示すと、 Bm は G#ロクリアンスケールに含まれるコードです。モーダルインターチェンジを用いる際に、使用するモードと主たる調性を比較し、第3音とトーナルセンターの音程がどうなっているかという点がよく確認されると思いますが、ナチュラルマイナースケール(エオリアンスケール)もロクリアンスケールも、双方ともに短3度を持つスケールです。つまり、双方ともに、いわゆる「マイナー系」のモードであり、その意味ではこのモーダルインターチェンジはメジャー系の調性の曲でマイナー系のモードを参照するような大きな印象の違いはないかと思います。ただ、Bm はロクリアンスケールの特徴音である「♭5」を含むコードであり、印象的な曲の導入を演出しているのは間違いないと思います。
この曲は、これ以降で使用されているコードのほとんどがダイアトニックコードですが、このイントロのおかげもあって個性的な曲という印象をうまく形成しているように感じます。
Aメロ
Aメロ
E, B, D#m , C#m, G#m
E, B, F#, G#m
ここからはAメロのコード分析になります。
イントロの部分でも言及したとおりですが、Aメロ以降で使われるコードの殆どがダイアトニックコードです。
そのうえで、Aメロの進行を整理すると、前半が「♭6→♭3→ 5m → 4m → 1m」、後半が「♭6→♭3→♭7→1m」となります。ファンクションで整理すると、前半が「SD→T→D→SD→T」となり、後半が「SD→T→SD→T」です。
こうして整理してみても、SDやDとTを行き来するという、比較的シンプルなコード進行であるように思います。
前半部分では、ドミナントコードの後にトニックではなくサブドミナントコードが置かれていますが、マイナーキーの場合、第5音をルートに持つセブンスコードがドミナントセブンスではないこともあり、メジャーキーのようにトライトーンが上下に半音ずつ解消しながら、ルートが5度下に進行するドミナントモーションが生じません。そういったことからも、ドミナントコードの後にサブドミナントが続くということは、いい意味では大きな違和感はなく、別の意味では特別な意外性もそこまで生じていないと思われます。
個人的にAメロ部分で面白いと感じたのは、アンサンブルにおけるすみわけの仕方でした。
実際の演奏の中では、ベースは上記のコードの通りに演奏しているのですが、ギターはずっと G#m の構成音をブラッシングやゴーストノートを交えたアルペジオで演奏しています。ダイアトニックコードによって構成している曲であれば、複数のコードの間に共通の構成音を見出すことは比較的簡単だと思いますが、このAメロに使われているコードはその中でも G#m との共通の構成音を見出すのが容易です。「D#m」と「C#m」については、構成する3音のうち、1音ずつしかG#m と共通する音はないですが、それ以外のコードは2音ずつを共有しています。そのため、ギターはG#mを弾きつつ、ベースはコード進行をなぞるという曲作りが違和感なく成立しています。
さらに、Aメロのコード進行では、第1音をルートに持つトニックコードは前半部分と後半部分の最後に1回ずつ出てくるだけであり、よくあるような第1音をルートとするトニックコードから始まる曲ではありません。もっとも安心感のあるコードを絞って使うことでメリハリを作りつつ、ギターではさりげなく第1音をルートとするトニックコードを弾くというバランス感覚を伴った曲作りが、とても興味深く感じました。
サビ
サビ
G#m, B, C#m7, Ddim7, D#
サビでは、それ以前までと比べてハーモニックリズムがかなり異なります。
これまでは、だいたい2拍ごとにコードが切り替わっていくリズムでしたが、サビではだいたい2小節ずつを単位にコードが切り替わります。最後の Ddim7 と D#は1小節でコードが切り替わります。
ケーデンスを整理すると、「1m → ♭3 → 4m → 4#dim7 → 5」となり、ファンクションの動きは「T → T → SD → D」になる、だろうと思います。ファンクションの動きはやや自信がないです。
サビは、これまでのパートとは異なり、トーナルセンターをルートに持つコードによって始まっています。調性の中では主役のコードから始まることに加えて、これまでの部分で使用ポイントを絞ってこのコードが使われてきたこともあり、この始まり方は「曲の盛り上がりがやってきた」という感覚を聴き手に抱かせます。サビの前半4小節分は、ファンクションでいえばトニックの機能を持ったコードが連続するので、安定感を伴って進んでいきます。そして、後半部分では、循環に向けた動きが進んでいきます。動き自体は、SDからDに移行し、再度トーナルセンターをルートとするトニックコードに戻るという王道といえる動きです。ただ、細かな工夫が取り入れられています。まず、後半を構成する3つのコードは半音ずつルートが上昇するラインクリシェを形成しています。これによって、コード進行のつながりはかなりスムーズであると感じられます。
サビの5番目のコードでは、半音上昇するパッシングディミニッシュが用いられており、これはセカンダリドミナントの代理コードでもあります。B♭7 の♭9のテンションコードからルートが短縮されたコードと、このDim7は構成音を共通していることで、そうした機能を持っていると解釈ができます。
このように、ラインクリシェとセカンダリドミナントを用いたパッシングディミニッシュによって、流れるように最後の D# までコードがつながっていきます。この最後のコードも G#マイナーキーにおけるダイアトニックコードではありませんが、ここでは、通常のマイナーキーでは発生しないドミナントモーションを用いるために、ナチュラルマイナースケールではなく、ハーモニックマイナースケールが部分的に取り入れられていると理解することができます。ナチュラルマイナーキーには含まれない、トーナルセンターから半音低い導音を導入したハーモニックマイナースケールを導入することで、導音が主音に解決し、かつ、ルートが5度下に動くというドミナントモーションを取り入れることができるようになっています。
このような工夫によって、この曲のサビでは、盛り上がりとスムーズな進行を両立した構成が成立しています。


