Saucy Dog [ 結 ]:コード進行分析

はじめに
まずは、曲の基本情報について。
この曲のキーは「F#メジャー」の調整で作られた曲です。
そのため、スケールの構成音は「F#, G#, A#, B, C#, D#, E#」の7音となります。
したがって、ダイアトニックトライアドは、F#, G#m, A#m, B, C#,D#m, E#dim です。
ダイアトニックセブンスコードは、F#maj7, G#m7, A#m7, Bmaj7, C#7,D#m7, E#m7(b5) ということになります。
BPMは154で、ハーモニックリズムは規則的で、1小節ごとにコードが動いていくような構成になっています。
コード進行について
冒頭にサビのコード進行が1循環分演奏されてからAメロに入っていくという構成になっているので、ここでは一番最初のサビのコード進行は省略してAメロから整理していきます。
あくまでも、私のリサーチに基づく情報であり、一次情報ではないため原曲のコードとは異なる可能性もある点は補足しておきます。
Aメロ
F#, Badd9, C#, Ddim7, D#m7, Cmin7(b5), Bmaj7, Bmaj7/C#, C#
F#, Badd9, C#, Ddim7, D#m7, Cmin7(b5), Badd9, C#, F#
同じようなフレーズが2回繰り返されるような構成になっており、末尾のコードのみがそれぞれ異なっています。
Bridge
Emaj9, B/D#, F#, C#
Emaj9, B/D#, G#m, A#m11, Badd9, C#sus4, C#
このパートはハーモニックリズムが他の部分とは異なり、前半部分は2小節ごとにコードが切り替わりますが、後半部分ではサビへの盛り上がりの演出として、ハーモニックリズムが1小節単位になっています。
サビ
F#, Ddim7, D#m7, Cmin7(b5), Bmaj7, F#, Badd9, C# (REPEAT)
Bmaj7, Ddim7, D#m7, Cmin7(b5), Bmaj7, Bmaj7/D, F#
サビ部分は、Aメロディと類似したコード進行の繰り返しによって構成されています。
分析
分析とは言うものの、コード進行の流れを整理するにとどまり、それによって得られていると思われる「効果」や「意味」という部分には自分の能力的に言及できないことをはじめにお断りしておきます。
Aメロ
Aメロ
F#, Badd9, C#, Ddim7, D#m7, Cmin7(b5), Bmaj7, Bmaj7/C#, C#
F#, Badd9, C#, Ddim7, D#m7, Cmin7(b5), Badd9, C#, F#
大まかにみると、ここでは「1→4→5→6→4→5」という流れでコードが進行していると読めると思います。
調性のトーナルセンターをルートに持つ、最も安定した響きのコードから始まり、サブドミナントコード(SD)を経由してドミナント(D)へ、後半もトニックコード(T)に分類される「D#m7」からSDを経由してDへと動いていく、という構成です。こう見ると、「T→SD→D」という、とてもシンプルなコード進行で曲が作られていることがわかります。
これだけでも、「複雑なコード進行は良い曲にとっての必須条件ではない」ということを感じます。あくまでも大衆音楽としての良い曲であって、音楽の歴史に新しい1ページを刻むような曲のことを「良い曲」と読んでいるわけではありませんが。
Aメロのコード進行を分析するにあたり、少し引っかかる場所があるとすると、2つのダイアトニックではないコードかと思います。具体的には、「Ddim7」と「Cmin7(b5)」がそうです。たしかに少し特徴のあるコードだと思いますが、双方ともに曲の雰囲気をガラッと変えるようなコードというよりも次のコードへの動きをスムーズにしつつ、ほんの少し、曲にアクセントを添えているコードかなと思います。
それぞれについて、簡単に触れます。まず、「Ddim7」については、「パッシングディミニッシュ(PD)」などと呼ばれるテクニックで、今回の曲の場合には「セカンダリドミナント(SD)」の代理としても機能しているように思います。PDが曲の中で使われる際には、ルートが半音上に動いたり、あるいは半音下に動いたり、という動きで使われることが多いです。Dim7というコードは、2つのトライトーンの関係で構成されたコードで、特に半音上に進行していくときにはDim7を構成するトライトーンのひとつがそれぞれ上下に半音ずつ動くことで緊張からの緩和を生み出すとされているようです。また、半音上に上がるDim7はDim7の後に続くコードに対するSDを作るコードのテンションb9のコードのルート省略型と構成音が共通なので、完全5度下へのルートの移動こそないですが、ドミナントモーションのような動きとなるため、コード進行の強い推進力を生みだします。
この曲においては、Ddim7はA#7(b9)と構成音をおおむね共有しているので、差し替えてもそれほど違和感はありません。
次に、Cmin7(b5)についてですが、min7(b5)は先ほどのDim7と同じようにコードの中にトライトーンを含んでおり、「ハーフディミニッシュ」などと言われるコードで、パッシングディミニッシュのような形で用いられることがあるコードです。今回の場合は、Cmin7(b5)においてルートと減5度音程の第3音の間のトライトーンがルートの半音下降によって解消されています。また、移行先のコードがメジャーセブンスの場合、ルート以外のコード構成音が変わらないため、コードの移行もかなりスムーズになります。
加えて、「結」においては、このCmin7(b5)は「モーダルインターチェンジ」としても理解することができます。F#をトーナルセンターとして、Cmin(b5)がダイアトニックコードになるのはリディアンスケールなので、このコードはリディアンスケースへのモーダルインターチェンジであるといえると思います。なお、モード間の比較でいえば「C」という音は両者のモードにおいて唯一異なる構成音でありリディアンの特徴音です。ただ、両スケールともに第3音が長音程のスケールなので、両者のモードがもつ雰囲気にはそれほど大きな違いがあるとは言えず、「わかる人にはわかる」というレベルの違いかな、と思います。
なお、この「Cmin7(b5)」というコードは、Dmin7/C#というダイアトニックセブンスコードと構成音がほとんど同じなので、置き換えてもそれほど違和感はありません。とはいえ、ルートの半音ラインクリシェが成立しなくなるということと、トライトーンの解決による緊張の緩和が作れなくなる、などの差異は確かにあるので、置き換えると雰囲気は少し変わってしまいます。
以上を踏まえると、Aメロのコード進行は「1→4→5→(SD)→6→4→5」という感じになるのかもしれません。
どちらにせよ、比較的シンプルな進行で、かなり繊細な工夫を詰め込んで曲を作っているということになるような気がします。
さて、以上でAメロのコード進行の分析を終えますが、サビの部分で用いられている工夫については、Aメロと共通なのでサビについては割愛します。
Bメロについては、同様に分析をするつもりですが、Aメロについても検討と比べるとコンパクトになります。
Bridge
Bridge
Emaj9, B/D#, F#, C#
Emaj9, B/D#, G#m, A#m11, Badd9, C#sus4, C#
このパートで特徴的なのは、なんといってもフレーズ冒頭の「Emaj9」というコードです。
F#メジャーの調性では、Eはそもそも構成音に入ってこない音なので、印象的な音に感じるコードだと思います。
このコードの使用も、Aメロ同様にモーダルインターチェンジであり、ドリアンスケールのコードが使われています。
ドリアンスケールは、トーナルセンターから3度の音程が短音階になるマイナー系のモードなので、曲自体のスケールとは雰囲気が大きく異なると思います。
曲の展開が変化しているということを伝えつつ、少しもの寂しげな雰囲気を曲に漂わせるという機能を期待したコード選びということなのでしょう。
コードファンクションの点からも、このパートは「SD→T→D」という動きで進行しており、不安定なところでゆらゆらと揺れ動いているような印象があります。
なお、Emaj9はダイアトニックコードの「G#m7」と構成音がかなり共通しているので、ファンクション的には、このコードに近くなるのかな、と理解しています。
後半部分もSDの繰り返しの不安定な雰囲気から始まり、1を含まない「T→SD→D」の進行でフレーズが締めくくられ、それをサビの冒頭で1が受けるという作りになっており、Bridgeのパート全体に漂う不安な雰囲気がサビへの進行によって一気に解決されるという、結構気持ちのいい作りになっていると感じます。
また、後半では、前半同様にモーダルインターチェンジからフレーズが始まっていますが、前半とはハーモニックリズムが変わり、コードが展開するリズムを速めながら、曲が盛り上がり、サビへと展開していきます。後半部分は「G#」から「C#」まで、スケールの音をひとつづつ上っていくベースラインの動きも曲の展開に沿っていて、いいなと思います。

